手根管症候群

手の親指から薬指までの4本の指にしびれを感じる場合にはまず手根管症候群が考えられます。これは中高年の女性に多く、非常に多くの方が悩まれている疾患です。整形外科医にとっては診断が比較的容易で直ちに治療が開始できるのです。手根管症候群は手指を曲げる腱とともに走行している正中神経が手関節の掌側の部位(手根管)で圧迫を受けることによって生じます。この部位では強靭な靭帯(手根靭帯)によって腱と正中神経が束ねられているためこの部で圧迫を受けると最も弱い正中神経の症状が出現するのです。原因は不明であることが最も多く誰にでも起こりえる病気なのですが、女性では妊娠や閉経の時期に女性ホルモンのバランスが変化しこの症状が生じ易いのです。また、同時期に左右の両側の症状が出る場合もめずらしくありません。手首をよく使う職業やごく普通の日常生活のなかでも家事などで手首をよく使う動作によってもしびれが増悪します。手関節の炎症が生じやすいリウマチの方や透析を受けている方、手関節部の骨折後の変形のある方、にも生じることが多いのです。正中神経は親指から薬指までの4本の指の手のひら側に分布し感覚をつかさどるため、この部位にしびれが生じるのです。また、物をつまむなどの親指の動きも担っています。以下の症状があれば手根管症候群の可能性があります。
治療は第一に、しびれや疼痛を改善させる薬(ビタミンB12、消炎鎮痛剤)を内服、神経への刺激を軽減させることを目的に手関節の安静(装具による夜間の手関節の固定:ナイトブレース)を行います。これでも症状が改善しにくい場合には、痛みを抑えるステロイドと麻酔薬を混合した注射を手関節部に行います(正中神経ブロック注射)。痛みが増強し日常生活に大きな障害が生じる場合や親指の動きが悪くなった場合には手術(正中神経を圧迫している手根靭帯のみを切離することで神経の圧迫を解除します)も早期改善の有効な手段となります。